スタートアップの経営企画・財務・IPO準備責任者としての100日!
こんにちは、keijinhoです。
ラグビー日本代表やサッカー日本代表、プロスポーツチーム対し、コンディショニング管理ツール「One Tap Sports」を提供しているスポーツテック企業『ユーフォリア』で、経営企画・財務・IPO準備責任者をしています。
2023年8月中旬に入社し、緊急タスクだったエクイティ調達がひと段落したことと、入社して100日経ったので、スタートアップの経営企画・財務・IPO準備責任者としてやってきたことを言語化しておこうと思い、仕事について書いていくことにしました。また、スタートアップのコーポレート・IPO準備領域で、自ら発信することでいろんな有益な情報が集まってくることもちょっと期待しています笑
簡単に自己紹介をすると、中学卒業後、ブラジルに2年サッカー留学しサンパウロ州1部のBragantinoの下部組織でプレーしたり、世代別代表候補に選出されたり、大学までサッカーバカな生活をしていました。ただ、膝の大ケガを機に選手の平均寿命の短さやその後のセカンドキャリアをイメージできなくてプロへの道を諦めました。その後、サッカー選手の代理人になりたくて弁護士を目指して大学院に進学するも、司法試験浪人して見事に三振、30歳無職というかなりアウトローな人生を歩んできました笑。
そんな中で運良く東証1部のSierに拾ってもらい社会人生活がスタート。上場企業2社で法務とガバナンスを中心に、M&Aやプロジェクトファイナンスを経験。その後、スタートアップ2社で経営企画やIPO準備、コーポレート統括を経て、自分自身も熱量もって打ち込める事業が良いと感じ、2023年8月にスポーツテック企業のユーフォリアに経営企画・ファイナンス・IPO準備責任者としてジョインしました。
1社目:東証1部/Sier/企業法務・経営企画担当
2社目:東証1部/準大手不動産デベロッパー/法務係長・経営企画担当
3社目:スタートアップ(ExitはM&A)/ITデバイス製造/経営企画・財務・IPO準備
4社目:スタートアップ(IPO断念)/HR系コンサル・ファンド/コーポレート部長
5社目(現職):スタートアップ/スポーツテック/経営企画・財務・IPO準備責任者
キャリアのベースとしては企業法務ですが、特定の業務に注力してきたというよりは、経営企画を任されたり、IPO準備をやったり、M&Aやプロジェクトファイナンスをやったり、出資検討をやったり、ちょっとだけファンドマネージャーをやってみたりと、どちらかというと何でも屋に近く、サッカーでいうとポリバレントなプレーヤー(という思い込み笑)です。
その他、2021年ころから、スタートアップ企業を中心に、エクイティやデッド、1,000万円~1億円の大型の補助金等、資金調達や財務コンサルティングの複業をしています。
こんな感じで、これまで割とアウトローな人生を歩んできていて、キャリアを面白がってもらえることが多いので、これまで何をしてきたのか、いま何を感じているか、今後何に気を付けているかを中心に言語化していきたいと思い、書いてみることにしました。
特に、スタートアップのコーポレートは型にはまった業務が無く、求められる役割やスキルも会社によってバラバラなので、自分のValueを発揮できるか不安という方もいるかと思いますが、スタートアップで働くということや、Day1から活躍するためには何が必要か(ちなみにぼくは39°の熱を出して体調を崩し、Day1から休みをいただき寝てました笑)という点について、少しでも参考になれば嬉しいです!
Contents
エクイティファイナンス、投資家コミュニケーション
まず、ユーフォリアは2023年後半にシリーズDの資金調達を実施しました。
https://eu-phoria.jp/news/pressrelease/20231129-kirin-khif-euphoria
https://eu-phoria.jp/news/pressrelease/20231130-tokiomarinehd-euphoria
複数の既存投資家様に加え、新規投資家として、東京海上ホールディングス様、KIRIN HEALTH INNOVATION FUND(GP・グローバルブレイン社)等、複数の事業会社様からご出資いただきました。マーケット環境が芳しくない中(https://initial.inc/articles/japan-startup-finance-2023h1)でしたが、IPOまでに必要な最低限の資金を確保でき、何とか繋ぐことができました。
こう書くとなんだか凄そうに見えますが、ウチは6月決算の会社なので、実はぼくが入社した時8月には事業計画は固まっていました。そのため、ぼくがやったことは、既存の事業計画のキャッチアップと投資家コミュニケーションであり、事業説明や、投資家サイドから追加要求(成長性や蓋然性の根拠、KPIの説明やパイプライン、売上見込み等)について、事業部サイドと連携しながら対応した形です。
内定後入社前の状態で決算や事業計画を見せてもらい、フィードバックを返したりしていたので、基本的にはこれまでぼくが経験してきたファイナンスの延長線上として違和感なくエクゼキューションをこなすことができました。
シリーズDスケジュールの概要(と、ぼくの入社前後の関わり)はこんな感じ。
- (PJスタート)3月。8~9月ころのクローズを目指して、CFOを中心に事業計画を作成開始し、投資家へのタッピングをスタートしたとのこと
- (採用面接と内定)5月。CFO面接、代表面接。面接後、事業構造のイメージや、面接時に感じた課題感を伝えるためにパワポを作成・提出。
- (既存投資家周り)5月。既存投資家周りをスタート。内定後、ファイナンス資料のブラッシュアップに継続的に関与、CFOの投資家周りに可能な限り同席
- (新規投資家周り)6月。取締役会で予算(事業計画)の最終承認。新規投資家周りをスタート。CFOの投資家周りに可能な限り同席
- (リード確定)7月。リード投資家(既存株主)の出資内定
- (入社)8月。入社。投資家周りと投資家質問・DD対応。リード投資家の投資委員会で出資決定。
- (入社後)9月。リード投資家の投資実行。既存株主複数社の投資委員会で条件付き出資決定。
- (入社後)10月。新規投資家複数社の出資決定。フォロー投資家の投資実行・クローズ
また、今回のシリーズDの所感や反省点は以下です。
- IPOスケジュールとの兼ね合いで、主幹事証券候補から上場時のバリュエーションに影響があるからと発行期限が10月末までと明確に切られていた(11月以降にエクステンションをする場合は、株価算定をし直す必要があった)ためタイトな期間であった
- 特に、投資方針や投資フェーズが合わずお断りされたVC様もありましたが、興味は持ってくれてはいたものの投資検討がこちらの要求する期間までに終わらずに流れてしまった投資家様もいて、通常時であればエクステンションラウンドを実施するケースでも今回はそれを敢えて実施しなかった。そのため、上場時のバリュエーションへの影響やIPOフェーズを加味したスケジュール感で余裕を持った調達活動が必要だった。
- 入社前からシリーズDのための事業計画作成がスタートしていて、事業進捗や事業部ヒアリング、数字作成等に関与しきれていなかったので、他人が作成した事業計画を紐解くのは難しいなとも感じつつも、投資家サイドに何を説明するか、どこにフォーカスさせるかといった見せ方は改めて重要だなと感じた。
とはいえ、スタートアップの資金調達の市況感が悪く、ランウェイも短くなってきている中というプレッシャーやストレスがかかる状況ではありましたが、ぼく自身も入社前から多少関与し、入社後も最も時間を費やした業務でしたので、ダウンラウンドせずにバリュエーションを上げての調達を無事に実施・経験でき、一気に事業や会社の状況を掴む機会でもあったので、入社直後にファイナンスイベントを達成できたことは運が良かったと思っています。
エクイティ調達後記はこちら⇩
Sports tech スタートアップが実行したシリーズD資金調達後記!
IPO準備プロジェクトマネジメント
エクイティ調達と並行して行ったのが、IPO準備の推進です。
前々職でもIPO準備に携わったり、IPO検定上級を取得したり、多少はIPO準備企業のあるべき状態は把握しているつもりでいましたし、CFOからは「IPOフェーズが進んでいるし、コーポレートの人員は整ってるよ」と聞いていたので、前職でも経験していたのもあり、ほぼできあがった体制をイメージしながら入社したのですが、コーポレートの状態は入社してすぐにぼくの期待を見事にぶち壊してくれました笑。
到達しておきたいレベルとのギャップを感じた課題
- (経理)月次決算確定が15日以降、取締役会早期化や四半期開示トライアルができていない
- (経理)全社単位での決算のみで、各事業損益が出せていない
- (人事)採用が追い付いていない、特にエンジニアが不足し開発スピードが遅い
- (総務)社内規程整備が1/3にも満たない状態(当然、運用できていない)
- (業務)業務プロセスが可視化されていない
- (IPO)プロジェクトマネージャーが不在
- ※ 経営企画については、⇩で詳述
というのも、コーポレート機能のうち、経理はぼくの入社2ヶ月前にようやく3人体制になったばかりで月次決算が締まるのが毎月15日以降、取締役会開催も20日以降、メンバーに経理業務のほかにもタスクが圧し掛かっていた状態でしたので、以下で詳述するように、ぼくが予算関連や会議体運営を巻き取り、経理や決算早期化に注力してもらうことにしました。
また、社内規程のは運用フェーズに入っているべきなのに整備が1/3にも足りていなかったりしたので、社内規程を急ピッチで揃え、社内に周知しながら運用フェーズに移行させたり、さらに、ERPを入れ替えたばかりでワークフローの導入途中だったりしたので、IT担当と人事と連携して組織に併せた決裁・承認プロセスの見直しを行いました。
そのほか、IPO準備のスケジュールを引き直し、対応期限とコーポレートの担当の振り分けを行い、進捗管理を実施し、月1で証券会社との定例を開催し、IPO準備状況をリードに努めました。
最低限、勤怠管理や未払残業代といった労務のテーマをクリアできていたのは幸いでした。
経営企画機能の立ち上げ
経営企画機能がほぼ皆無だったこともあり、経営企画機能の立上げも急ピッチで行いました。
到達しておきたいレベルとのギャップを感じた課題
- (経企)PL予算の作成と月次決算作成のみで、予実分析や通期見込作成ができていない
- (経企)コスト分析、コスト管理ができていない
- (経企)資金管理ができていない(バーンレートやランウェイが明確じゃない)
- (経企)KPIのモニタリングができていない
その中でも1番気になったのが、事業進捗の「数値化・見える化」「通期進捗のモニタリング」についてです。個人的にも事業を理解する上で、「事業が複数あることからそれぞれの事業構成比や業績へのインパクトがどれくらいあるのか、何がKPIなのか(何を重視して事業活動しているのか)、単月黒字に転換できる時機はいつか、ランウェイはどのくらいあるのか」を可視化しておきたかったというのが最大の理由です。
加えて、前回シリーズCのラウンド調達時の事業計画において実績との乖離が発生していたことや、当期もPL計画のみで三表連動になっていなかったこと、証券会社が予算進捗を最重視しているなかでこれまでの取締役会での議論は定性面が中心で定量的な課題を明確にできていなかった点が不十分と感じ、急ピッチで経営企画機能の立上げを行いました。
予実管理体制の構築(KPIマネジメント、コストマネジメント)
ウチはスタートアップですが、ワンプロダクトに注力しているわけではなく、大きく2つのセグメント、4つの事業を行っています。
それぞれの事業のトップがいて、各事業の売上と粗利までは事業部ごとに把握に努めていましたが、以下の図のように、全社観点での月次決算には対応しているものの、事業部の数字と会計の数字が一致していなかったり、経費の配賦ルールが明確になっていなくて事業損益が出せない状態でした。
そのほか、予実差異の要因分析を行っていなかったり、通期業績見込みと予算との乖離の検証を行っていなかったり、KPIレベルでのモニタリングができていなかったりと、課題は山積みでした。
予実管理の課題
- 月次決算は行われていたが、全社のみで、事業単位での集計ができていなかった
- 各事業単位では売上・粗利までの管理のみで、KPIに落とし込んだマネジメントができていなかった
- 全社・事業単位でのズレの要因や数値が可視化できていなかった(取締役会や経営会議での議論も定性面が中心になってしまっていた)
- 予算と通期見込との乖離の把握とそれに向けたアクション検証(上場後において予算修正が必要となる『売上±10%・各段階利益±30%』の把握)ができていなかった
予実管理は運用を回し続けることがキモになります。特に、ウチでは、以下で詳述しますが、隔週で経営会議を実施し事業進捗をモニタリングするほか、月1の定時取締役会の月次報告でも利用するため、体制構築時にモニタリングや分析を行うための作業負荷を最小化することに努めました。具体的には、会計システムから出力した総勘定元帳を貼り付けるだけで簡単に毎月の実績更新ができるよう報告フォーマットを作りました。
また、IPO準備が進んでいくとセグメント開示が求められるようになるという観点からも、経費の各事業への配賦ルールを作り、全社視点と各事業視点でモニタリングできるよう原価計算を経理と一緒に整えたり、売上や各段階利益、KPIレベルで予算と実績・見込を可視化し、定量的に事業課題を把握できる体制を作りました。
上場審査での最大のポイントは東証の実質基準のうち『事業計画の合理性』と言われたりしますが、業績未達で上がれない、他の審査が厳しくなる等、マイナスに働くので、タイムリーにモニタリングして、アクションやリカバリーをできる限り早いタイミングで討てる状態を作ることが重要だなと思っています。
資金管理、キャッシュマネジメント
ウチはトップアスリートや一般人のコンディショニングデータ・ヘルスケアデータを取り扱うをテック企業なので開発投資が先行しているほか、データ活用に関するR&Dにも注力しているため、財務状況については特に注意が必要です。
資金管理の課題
- 予算作成が三表連動になっておらず、PL予算のみでBS予算・CF予算がなく、実績や予測も三表連動で管理できていなかった
- バーンレートをランウェイをざっくりと把握していたのみで、数値化・明確化できていなかった
- テック開発やR&Dへの投資余力、投資回収・ROIがどのくらいか、投資配分・投資基準があいまいだった
テック企業にありがちかと思いますが、いつ単月で黒字転換できるかについては事業進捗を常に追っておく必要がありますし、バーンレートをどうやって下げるのか、ランウェイはどのくらいあるのかについても数値化・可視化しておく必要があります。これによって、機能の追加開発への投資余力はどれくらいあるのか、投資回収期間(NPVやIRR)はどのくらいか、重要課題であるエンジニア採用にいくら割けるか等、取れる手段も変わってくるためです。
そこで、事業計画について、PLだけでなく、BSとCFを追加して三表で見るようにしました。実績管理についても三票で行うようにし、月初現預金、営業投資財務CFと現預金増減、月末現預金、ネットバーンとランウェイを可視化して実績と資金予測を取締役会に報告するようにしました。
また、資金管理と資金予測ができるようになったので、開発投資やR&D投資の判断について資金余力のシミュレーションができるようになったり、ROIの観点が加わったりと変化してきました。
これについては、グローバルブレイン社のパートナーの社外取締役から毎月継続してほしいと言われたりして、資金管理の実施はポジティブにはなっても、実施してネガティブになることはないかと思うので、やって良かったと思うことの1つです。
株主総会、取締役会、経営会議等、重要会議体の事務局
重要会議体の取りまとめについえも、経営企画機能の立上げの1つとして行いました。
ぼくが入社する前までは、主担当が不在で、経理や総務のメンバーが顧問弁護士や監査法人と連携しながら進めていたようですが、株主総会や取締役会の議案について、メンバーに会社法や上場観点でのガバナンス上の知見や経験が無く、議案を作成する上での勘所に課題があったようです。(コーポレートもミニマムの人員リソースでしたので、スタートアップではよくある課題かと思います。)
また、特に取締役会と経営会議の運営は課題が満載でした。取締役会の資料作成について取りまとめ役がおらず、毎月取締役会前の1週間はワチャワチャだったようです。また、上記のように、報告内容が定性面中心で、予実や資金面での課題が見えにくくなっていたこともありました。このほか、事業部ごと報告形式も都度バラバラで読み取りにくかったり、資料作成にムダに時間を費やしていたりしていました。
そこで、数字をメインにした事業進捗と重要課題を報告や議論の中心に置くようにしたほか、フォーマットを統一化し事業ごとに論点が見やすくなるよう意識しました。
まとめ
長々と書いてきましたが、本日の内容としては以上となります。ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
成長期のスタートアップの例に漏れず、ウチは積極採用中です。
ウチの特徴は、社内に株主さんがDIYしてくれたバーカウンターがあり、スポーツ企業らしく、サッカーやラグビー、野球等の日本代表戦はパブリックビューイングをしていますし、お客さんをお招きしてバーカンで交流しています。
コーポレートの体制もまだまだ強化していますし、特にエンジニアの方には1人でも多くお会いしたいので、少しでも興味がある方はぜひご連絡いただけると幸いです。バーカンでお待ちしています笑